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誰でもわかるStable Diffusion その3:AIお絵描きは問題?

AIお絵描きが普及すると、誰でも簡単に絵が描けるようになります。Stable Diffusionの力を借りるだけで、プロ顔負けのイラストや写真のような画像も簡単に生み出せます。

夢のような技術ですが、問題もあります。ここではその問題を見てみましょう

 

 

1.AIは人間の絵をパクっている?

解説記事その1で、Stable Diffusionがたくさんの画像を使って学習していることを説明しました。

hoshikat.hatenablog.com

 

学習に使われる画像はどこから持って来たかというと、インターネットからです。ネット上で拾える画像を何十億枚も使って学習し、そうして絵が描けるようになります。

さて、Stable Diffusionはそれらの絵をパクって描いているのでしょうか?

答えは「エス」でもあり「ノー」でもあります。

 

「イエス」の理由

  • Stable Diffusionは学習した画像の要素しか描けない。例えば、水墨画の画像を学習していないと水墨画を生み出すことはできない。
  • 追加学習機能である「Textual inversion」や「Lora」を使うと、学習画像そっくりの画風の絵を作り出すことができてしまう。

「ノー」の理由

  • Stable Diffusionは画像から「特徴」を取り出して学習するので、既存の絵を切り貼りして絵を描いているわけではない。

 

言えるのは、「使う人がパクリ絵を描こうと思えば描けてしまう」ということです。パクリの定義は人によって違うと思いますが、他人の絵の画風や構図にそっくりならパクリと思われるでしょう。Stable Diffusionを使えば好みの絵とそっくりな画風、構図の絵を描けます。

ただし、「パクリ絵しか描けない」も間違いです。AIも使い方によってはオリジナリティあふれる絵を生み出すことができます。上で書いたように、Stable Diffusionha既存の画像を学習するときにその絵から「特徴」(色が赤いとか丸が多いとか)を取り出して、それを学習します。一枚の絵から最大2560個もの特徴を探し出して学ぶのです。描くときはそれらの特徴を使って絵を描きます。

こういう学び方は人間が絵を学ぶ手法に似ていて、「コピー」とか「トレパク」とは違います*1。たとえStable Diffusionが何かと似た絵を作ったとしても、事前に学んだ何百億という絵の特徴をもとに絵を描いているので、「このAI絵は〇〇をパクっている」と証明するのはとても難しいです。

 

結局、Stable Diffusionがパクリ絵で問題になるかどうかは、それを使う人が何を描くかによります。

使う人によって便利な道具にも凶器にもなるのは包丁と同じです。

 

2.機械学習にネットの絵を使うのは問題?

現在のところ、問題ありません

あなたが絵を描けるとして、ネットに公開した自分の絵をAI学習に勝手に使われるのは腹が立つかもしれませんが、AIに学習されることを防ぐのは難しいです。

日本の著作権法は、ネットの絵を機械学習目的で使うことを許可しています

 

著作権法

第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合

 

この条項に対する文化庁の解説では、許可されるのは

  • 人工知能の開発を行うために著作物を学習用データとして収集して利用したり,収集した学習用データを人工知能の開発という目的の下で第三者に提供(譲渡や公衆送信等)したりする行為
  • コンピュータの情報処理の過程で,バックエンドで著作物をコピーして,そのデータを人が全く知覚することなく利用する行為

とあり、これはまさにStable Diffusionの学習そのものです。

 

では、あなたが絵を公開する時に「この絵を使ってAI学習するのは禁止!!」と書いた場合、AI学習に使われることを防げるでしょうか?

残念ながら防げません。あなたが「禁止」と言っても、法的な拘束力がないからです。

画像公開サイトが「禁止」と書いた場合はどうでしょう?利用規約は法律よりも弱いものなので、アカウント停止やアクセス禁止のようなペナルティを受けることはあっても、著作権法に振れない限り問題になることはありません。

※「法的に」という話です。モラル的には許されませんよ。

 

3.Stable Diffusionで作った絵は違法?

基本問題なし、悪用すれば違法になる可能性はあります

個人で楽しむ場合は問題ありません。2次創作として公開したり、同人作品として頒布するのも(違法性はともかく)多くは黙認されるでしょう。

問題となるのは以下のケースです。

 

・明らかなパクリを狙って画風や作風をまね、作り出した絵を使って元ネタ作者の権利を大きく損なった場合

著作権法違反となる可能性があります。画風や作風は著作権で保護されていないのでたまたま似てしまっただけなら問題ありませんが、明らかに狙って作ったパクリ絵によって元ネタ作者が実害を受ける場合は話は別です。

 

・実在人物の写真を使って見分けがつかないほど精巧なコラ画像を作り、その人物の権利を侵害した場合

肖像権侵害、使い方によっては侮辱罪にあたる可能性があります。まあ少し考えればわかると思いますが。

 

これらは別にStable Diffusionが描いた絵だから問題というわけではありません。ただStable Diffusionの描く画像は本物と区別がつかないほど精巧なので、今後も議論の的となるでしょう。

 

4.自分の力で描かないのが問題!

便利なお絵描きツールとして普及していくのかもしれません

自分で絵を描くのは時間も技術もエネルギーも必要です。Stable Diffusionを使えばあっという間に上手な絵を大量に生産できてしまうので、何だかズルをしているように思われるかもしれません。しかも、ちょっとした手間と工夫であらゆる画風をマネできるので、マネされる側にとってはたまったものではありません。

逆に言えば、絵を描ける人がStable Diffusionを使えば、絵を描く効率がグンと上がります。例えばStable Diffusionに背景やモブを任せたり、構図を変えさせたりして、自分はより絵の本質的な部分に集中することができます。

画像投稿サイトではAIで描かれた絵もたくさん投稿されていて、AI絵の認知度も上がっています。

動画投稿サイト「ArtStation」ではAI画像反対派と賛成派が混在

Stable Diffusionに絵を描いてもらうからといって、何の苦労もなくすぐにハイレベルの絵描きになれるわけではありません。

Stable Diffusionでは「プロンプト」というテキストを入力して絵を描きますが、上手な絵を描かせるにはプロンプトをどう書くか工夫する必要があります。パラメータ設定も重要です。ただ漫然とStable Diffusionを使っても他の大勢が作り出すAI絵と同じような画風になってしまうので、「上手な」AI絵師になるためにはStable Diffusionを使いこなす技術が必要になるでしょう。

 

まとめ

「Mimic」というAI画像作成サービスの発表が物議をかもしたことがありました。AIが与えられた絵の画風をそっくり真似て新しい絵を生み出すサービスでしたが、抗議が殺到し、結局は絵を描けるユーザーのみの限定使用、という縮小サービスに落ち着きました。

Stable Diffusionはそのような限定はありません。これがパクリ画像、違法画像の製造機となるかどうかは使う人によりますが、Stable Diffusionじたいの使用は何の問題もなく、AI画像だから問題ということもありません。

用法を守って楽しみましょう。

*1:ただし、機械は人間と違って一度学んだ特徴を完全に再現できるので、これがパクリに当たるかどうかは議論の余地があります。